元曲「趙氏孤児」【楔子】

 「趙氏孤児」という戯曲のあらすじのご紹介を胡散臭くやってみたいと思います(…)。

…本当、元曲のテキストは尋常でなく読みづらい! 読めない部分に関しては、「多分こうだろう」という推測も交えてますので(おい)あしからず…あくまで参考までに。



本題に入る前に、「元曲」のご紹介を軽く。

元曲は、元代に隆盛した演劇のことです。

4幕で完結するのが基本形。幕数を数えるときは「折」という単位を使い、たとえば第一幕は「第一折」といいます。

4幕で収まらない場合は、「楔子(せっし)」という補助幕を挿入することが許されています。このスレッドでご紹介するのは、この「楔子」です。

私も今元曲について地道に調べてるところでたいした知識がなくて申し訳ないのですが、そんな感じだと思います。


ちなみに、テキストは『元曲選校注』(王学奇・主編/河北教育出版社)に入っている「趙氏孤児」を参照します。形式は、楔子1幕、折数は5、と、元曲の基本形からちょっと外れてます。



…と、前置きが長くなりました(汗)。

では、元曲「趙氏孤児」の楔子のあらすじを下に。

宮城谷さんの「月下の彦士」をお読みの方は「えぇ!?」と思う点多数かと…(笑)。


  *   *   *


「趙氏孤児大報仇」紀君祥・作

題目:公孫杵臼恥堪問

正名:趙氏孤児大報仇

簡名:趙氏孤児


【楔子】

登場人物:

 屠岸賈(浄)

 趙朔(冲末)

 公主(旦)←趙朔の妻。霊公の娘(ということになってます)


(楔子は、屠岸賈のモノローグがほとんど。屠岸賈が趙朔に死を与えるまでのいきさつを、屠岸賈自身が延々と語ってます。)


屠岸賈は、晋の「大将」を務めている。

君主・霊公の下の文武の諸官の中で、武に関しては屠岸賈、文に関しては趙盾(ちょうとん)が、最も主の信頼を受けている。(←趙盾が霊公、すなわち夷皐に信頼されてる…という時点で「えぇ!?」な設定です…笑。今後もそんなのがいっぱい出てきます)。しかし、屠岸賈と趙盾は不仲で、屠岸賈は何度も趙盾を亡き者にしようとした。


ある時は、刺客のショ【金+且】ゲイ【鹿+兒】を差し向けて趙盾を殺させようとしたが、ショゲイは樹に頭を打ちつけて死んでしまった。


またある時は、霊公から賜った神ゴウ【敖+犬】という猛犬に、趙盾と同じ衣装をつけた人形に咬みつくよう100日間も訓練し、霊公の御前で「この犬は讒臣に咬みつきます」と言って放った。訓練されたとおり、犬はその場にいた趙盾に襲い掛かったが、「殿前太尉」の提弥明が犬を撲殺し、また趙盾に恩を持つ霊輒(れいちょう)という人物によって、趙盾は馬車で逃げ去ることができた。

趙盾は逃げのびることができたが、犬に咬みつかれそうになったため「讒臣」とされ、屠岸賈は趙盾の一族郎党を皆殺しにした。


ただ、趙盾の子・趙朔だけは、霊公の公主(娘)を娶った駙馬都尉である(主君の一族に連なっている)ので、手を下せなかった。


そこで屠岸賈は、偽の命令書をでっちあげ、弓の弦・薬の入った酒・短刀の3つの物を使者に持たせて趙朔を責めることにした。(つまり、讒臣の一味として、弓の弦で首を吊るか、毒薬の入った酒をあおぐか、短刀で自刃するか、好きな方法で自殺せよ、ということ。「弓の弦」でどう死ぬのかいまいち判然としないけど…やっぱ自縊かな。)


一族を殺され、自らの死を悟った趙朔は、妻の公主に向かって言った。

「おまえは子を宿している。生まれたのが女の子だったらそれまでだが、男の子であれば、『趙氏孤児』と名づけ、成長するまで待って、親の仇を討たせるように…」

屠岸賈が差し向けた使者に面会した趙朔は、短刀で自殺した。

嘆き悲しむ妻の公主は、宮殿の中に閉じ込められることになってしまった。

(以上)


  *   *   *


…と、楔子はこんな感じです。


趙盾を殺そうとしたのは、歴史書に拠れば霊公なのですが、屠岸賈を悪人に仕立てるためにみんな屠岸賈がやったことになってます。

他にも、趙盾が逃げ去って戻ってこないとか、霊公が殺されないとか、霊公の娘が趙朔の妻だとか(ほんとは霊公の叔父の娘が趙朔の妻)、ツッこみはじめればきりがないくらい「えぇ!?」な場面があります。

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