元曲「趙氏孤児」【第一折】

 さて、楔子に引き続き「趙氏孤児」の第一折です。


てか、ネサフして調べてみたら、「趙氏孤児」って京劇に残ってて今でも上演されてるらしい。ストーリーは多少違うみたいですが、ほぼ元の頃と変わらないストーリーのようで…すごいなぁ。

それだけでなく、ヨーロッパにまで渡ってるらしい、この劇。す、すげー…(笑)。『元曲選校注』の注によると、ヴォルテール(伏爾泰)が手がけた劇だか本があるらしい。


では、以下に第一折のあらすじを。韓厥ファンの方はいささかショック受けるかも(笑)。

ちなみに登場人物のおさらいですが、

屠岸賈=趙盾の一族を皆殺しにした悪役大臣

趙盾=晋の大臣。屠岸賈に殺されかけてどこかに逃亡

趙朔=趙盾の子

趙氏孤児=趙朔の子

公主=趙朔の妻。


*   *   *


「趙氏孤児大報仇」紀君祥・作


【第一折】

登場人物:

 韓厥(正末 :主役のこと)

 程嬰(外)

 屠岸賈

 公主


趙朔の妻の公主は、宮殿で男の子を産み、趙朔の遺言どおり趙氏孤児と名づけた。しかし、偵察の手をゆるめていない屠岸賈にばれてしまう。屠岸賈は、「まあ一月後に趙氏孤児を殺しても遅くはあるまい」と言って(←突如ゆるゆるな屠岸賈/笑)、公主の宮殿を「下将軍」の韓厥に警備させ(ただの門番です韓厥…笑)、もし趙氏孤児を逃がす者がいたら九族皆殺しにする、という告知の張り紙をした。


公主は男子を産んだものの、このままでは屠岸賈の手にかかってしまう。そこで公主は程嬰を呼ぶ。程嬰は在野の医者で、趙朔の門下で優遇されていた。程嬰は趙朔の家族ではなかったため、屠岸賈による族殺からのがれて生きていた。

程嬰は、公主の産後の処方のために呼ばれたのだろうか、と思いつつ、公主に面会する。


程嬰が公主から頼まれたのは、「趙氏孤児を救い出して欲しい」ということだった。しかし、趙氏孤児を逃せば一族皆殺しである。程嬰は、無事に趙氏孤児を逃がす手立てが浮かばず迷うが、公主の必死の頼み込みを受けて、趙氏孤児を逃がすことを決意する。

しかし程嬰は、もし私が趙氏孤児を逃がしても、屠岸賈に詰問されたあなたは「程嬰が逃がしました」と言いはしませんか?と公主に確認する。公主は、決してそんなことはないと、その場で首を吊って死んでしまう。(結構唐突で過激な展開…)

程嬰は意を決し、薬箱の中に趙氏孤児を隠して外に向かう。


門口では、下将軍の韓厥が部下とともに警備をしていた。

(韓厥は下軍の将だった時期があり、それが転じて「下将軍」となったものと思われます。)

そこに、慌てた程嬰が駆け出してくる(慌てるな程嬰…!笑)。勿論韓厥は程嬰を咎めた。

韓厥が「その箱の中には何が入っているのか?」と問うと、程嬰は「薬です。他のものは何もありません」と答える。

しかし、程嬰が趙氏から篤い恩を蒙っていることを知っている韓厥はなかなか疑いを解かない。しかし韓厥も趙盾に恩があり、屠岸賈の人物を嫌っている。


韓厥は、「俺が呼ぶまで来るなよ」と部下を退け、程嬰の持っている薬箱を開けた。

韓厥「お前の薬箱の中に『人』参も見つけたぞ!」(←気の利いた洒落だ…)

程嬰はびっくりして跪き、今までの経緯を切々と韓厥に訴える。

義侠心に篤い韓厥は、程嬰の訴えを聞き、程嬰と趙氏孤児を逃がすことにする。

程嬰は韓厥に感謝するが、韓厥がこのことを屠岸賈に告げはしないかと危惧を漏らす。

韓厥は、「安心せよ、お前は趙氏孤児を守り育てよ」と言い、その場で自刎(またも唐突に激しい展開…)。


程嬰は韓厥の義心に感謝しつつ、役人に見つからないうちに「太平荘」目指して逃走する。

(以上)


*   *   *


この幕の主役は韓厥! なのにこんなに早く退場してしまうとはー…! 義の人ですっごく好感持てるのですが、…で、でももうちょっと出てきてほしかったり、も。

あと、韓厥の洒落(?)に出てくる「人参(ren2shen1)」は、訛ると「人身(ren2shen1)」と聞こえるらしい(注によると)。現代中国語だと全く同じ発音。下手すればバレバレの危険な洒落ですな…。


元曲では、主役は1劇(4幕)通して一人の人物であるのが基本ですが、幕ごとに変わる場合もよくあります。ただ、主役となる人物は変わっても、主役の性別が変わることだけは滅多にないらしい。(と、どうでもいい予備知識。)

第一折の主役である韓厥はここで死んでしまったため、当然次の幕から主役が変わります。


さて、程嬰の逃れていった「太平荘」には公孫杵臼がいます。それだけは読みましたがその後は相変わらずまだ読んでません(笑)。まだ先が長いな…!

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