元曲「趙氏孤児」【第三折】

 引き続き元曲「趙氏孤児」第三折のあらすじを。

今までも、趙朔・公主・韓厥が次々自害して激しい展開でしたが、第三折がいちばん過激な気がします…。屠岸賈が鬼畜です。血も涙もないです。

そして、この劇一番のクライマックスの幕だと思います。殊に後半は…。


さて第二折では、趙氏孤児を救うため、命がけの策を考え出した程嬰と公孫杵臼。

第三折では、その策がついに実行に移されます。



*   *   *


「趙氏孤児大報仇」紀君祥・作


【第三折】

登場人物:

 公孫杵臼(正末)

 程嬰

 屠岸賈



公孫杵臼に我が子を渡し、策の詳細を打ち合わせて帰ってきた程嬰。

その翌日、程嬰は屠岸賈の役所の門を敲き、「趙氏孤児の居場所を知っています」と告げる。

趙氏孤児が見つからず、国中の嬰児を殺すぞと息巻いていた屠岸賈は、その報告を聞いて早速程嬰と面会する。


屠岸賈に趙氏孤児の居場所を問われた程嬰は、「公孫杵臼が匿っております」と答える。

が、屠岸賈は「嘘を言え!! 貴様と杵臼には何の恨みもないのに、杵臼を密告する筈があるか!? 嘘ならば利剣で貴様を斬り捨てるぞ!」と食って掛かる(←案外読みが鋭い屠岸賈)。

程嬰の方は冷静に答える。

「私と杵臼には何の恨みもありません。が、私には生まれたばかりの子がおります。元帥(屠岸賈)は、趙氏孤児が見つからなければ国中の嬰児を殺すと命じられました。我が子と、晋の嬰児たちを守るため、孤児の居場所をお知らせしたのです」

その理由に納得し、かつ趙盾と昵懇だった杵臼ならば趙氏孤児を匿うこともありうる…と思った屠岸賈は、程嬰の言葉を信じ、部下を従え程嬰を引き連れて公孫杵臼のいる太平荘に急行する。


屠岸賈は、太平荘に着くと、早速公孫杵臼を捕らえて自白を迫る。しかし、公孫杵臼は「孤児とはどの孤児ですか?」としらばっくれて見せる。棒打ちにして拷問しても杵臼が口を割らないので、屠岸賈は程嬰に命じて杵臼を打たせる(非道だ屠岸賈っ…!)。

程嬰は「私は医者ですのでそんなことは…」と最初はためらうが、ここで屠岸賈に疑われる訳にはいかず、棒を執って公孫杵臼を打つ。杵臼は程嬰を罵りつつ、ついに自供を始める。しかし、程嬰がこの件にからんでいることだけは白状しない。


屠岸賈・程嬰・杵臼がごたごたしているうちに、屠岸賈の部下がついに趙氏孤児(=本当は程嬰の子。第二折参照)を見つけ出す。屠岸賈は笑い、自らの剣で「趙氏孤児」を斬り殺す。程嬰も思わず心痛を表に出し、涙を流す。

悲嘆した公孫杵臼は、屠岸賈を罵り、階段に頭を打ち付けて自害する。


ついに趙氏孤児を殺し、後顧の憂いを絶った屠岸賈は、これは程嬰の功であると褒め、程嬰を客分としてもてなし、その子をともに育てることにする。


(以上)


*   *   *


…もちろん、最後に出てきた「程嬰の子」こそ、本物の趙氏孤児です。つまり、仇の下で育てられることになったんですね。

次の幕の第四折は、この事件から20年後、趙氏孤児が大人になった後になります。趙朔・公主・韓厥・公孫杵臼、そして程嬰が命を懸けて守った趙氏孤児は、一族の敵である屠岸賈――仇であり、育ての親――を討つことができるのか。


第三折は、「趙氏孤児」(程嬰の子)が屠岸賈に斬り殺されるあたりがいちばんのクライマックスかと思います。その場面には程嬰の台詞はなく、程嬰のしぐさ――心痛するしぐさとか、涙を流して顔を覆うしぐさとか――だけが書き込まれてます。それがまた、目の前で子を斬り殺された父の心の痛みを感じさせるというか…。

拷問をこらえて、最後には自害する公孫杵臼も壮絶ですね…。

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