元曲「趙氏孤児」【第四折】

 第四折は、第三折の20年後…趙氏孤児が復讐を果たせるであろう年齢に達した時になります。今までの内容をなぞる点も多々ありますが、第四折のあらすじを…。


*   *   *


「趙氏孤児大報仇」紀君祥・作


【第四折】

登場人物:

 程勃(=趙氏孤児)(正末)

 程嬰

 屠岸賈



趙氏孤児を巡る一連の事件が「趙氏孤児」の死をもって収束し、はや20年が経った。


その件で功のあった程嬰は屠岸賈の客となり、程嬰の子は屠岸賈の養子となって「屠成」と呼ばれた。「官名」(<?)は「程勃」という。程勃は、武については屠岸賈に学んで熟達し、文については程嬰に学んでいた。程勃は二人を父と思い、屠岸賈を「あちらの父」、程嬰を「こちらの父」と呼んで親しんでいた。


ある日、武術の稽古を終えた程勃は、「こちらの父」の程嬰に会いに行く。

が、見ると程嬰は、書斎で巻物を手にして思いつめた表情をしている。

実は程嬰は、程勃が二十歳になったので、そろそろ「真実」を教えて趙氏の仇を取らせねば…と思案を巡らせていたところだった。程勃が「趙氏孤児」であることを教える時期になったのである。程嬰が手にしている巻物は、今まで趙氏のために命を懸け、時に命を捧げた人々の姿を絵巻にまとめたものだった。


いつもならば、程勃が来ると嬉しそうにする程嬰なのに、今日に限っては程勃が話しかけても浮かぬ顔をしたまま。それどころか、程嬰は嘆息して目頭を押さえている。

いぶかしく思った程勃は、心配してその理由を尋ねるが、程嬰は答えない。程嬰は、「お前はここで書物を読んでおれ。私はしばらく奥に行く」と、手にした巻物をそっと置いて書斎を出る。


父が置いていった巻物に目を留めた程勃は、これは何だろう…と巻物を披いてみた。

そこには、赤い服の人物が紫の服の人物に向かって犬をけしかける絵、錘を持った人物がその犬を撃ち殺す絵、片方の車輪のない車を支える人物の絵、槐の樹に頭を打ちつけ自害している人物の絵…が綿々と描かれている。しかし、そこには名前が書かれておらず、それらの人物が一体どのような人か分からない。

さらに続きを見ると、弓の弦・毒酒・短刀を目の前にした人物が短刀で自害する絵、薬箱を捧げ持ち跪いた医者の前で自刎する将軍の絵、夫人が赤ちゃんを医者に預け、自縊する絵、白髪の老人が赤い服の男に殴られている絵が続いている。


赤い服の人物に対して怒りを燃やしつつ、一体これらの絵が何を描いたものか分からない程勃。そこに程嬰が戻ってきたので、程勃はこの絵巻について程嬰に尋ねた。


程嬰は、「これらは、お前と関係があるのだよ…」と、絵巻を指して説明を始める。

――槐の木の下で死んでいるのは、赤い服の人物から紫の服の人物の暗殺を命じられたが、紫の服の人物の忠誠心に打たれた刺客のショ【金+且】ゲイ【鹿+兒】。犬はゴウ【敖+犬】という猛犬で、赤い服の人物が紫の服の人物を殺すために調練したのだ。紫の服の人物に襲い掛かった犬を錘で打ち殺したのは、殿前太尉の提弥明。その場から逃げる紫の服の人物の乗った車を助けて走っているのは、以前紫の服の人物から食べ物を恵まれた霊輒という人だ――


話を聞いている程勃は、赤い服の人物に対して怒りを燃やしてその名を尋ねるが、程嬰は「忘れてしまった」と言ってその人物の名を明かさない。が、紫の服の人物は丞相だった趙盾といい、程勃と関係があるのだ…と教える。

さらに程嬰は説明を続ける。

――赤い服の人物は趙盾の一族を皆殺しにした。趙盾の子の趙朔は、弓の弦・毒酒・短刀を贈られ(暗に自害を命ぜられ、)、短刀で自害した。趙朔の妻の公主は宮殿に幽閉されたが、その間に男の子を生み、医者の程嬰という男にその「趙氏孤児」と呼ばれる赤ちゃんを託したのだ――


程勃が「その程嬰とは父上のことですか?」と尋ねるが、まだ程嬰は「世の中、同姓同名の人はたくさんいるよ」ととぼけて見せる。そして続けて、

――程嬰に趙氏孤児を託した公主は、自ら首をくくって死んでしまった。宮殿の門の見張りをしていた韓厥という将軍は、趙氏孤児を隠した程嬰を見咎めるが、趙氏孤児を見逃すため自刎した。程嬰は、かつて趙盾と同じ朝廷にいた公孫杵臼という老臣と相談し、程嬰の子を趙氏孤児とすりかえて赤い服の人物に密告した。赤い服の人物は、程嬰の子を趙氏孤児だと思って殺し、公孫杵臼も自害したのだ。

これらは20年前の出来事だ…今、趙氏孤児は20歳になっているのだよ――


聞き終わった程勃が、まるで夢の中のようでよく分からない、と言うと、程嬰はついに「なんと、まだ分からぬか!? 赤い服の男は奸臣の屠岸賈、趙盾はお前の祖父、趙朔は父、公主は母――あの医者の程嬰は私で、お前はあの趙氏孤児なのだ!」と言い放つ。

本当の父母は、父だと思っていた屠岸賈により自害を逼られ、また趙盾や自分のために多くの人が命を擲ったことを知った程勃…もとい趙氏孤児は、一時気が動転するが、正気を取り戻すと、まず程嬰に感謝し、父母らの命を奪い横暴の限りを尽くした屠岸賈を討とうと決意する。


(以上)


*   *   *


程嬰が、今までのことをすっかり程勃=趙氏孤児に話し、本当の仇が屠岸賈であることを教える――という幕です。程嬰の説明が、今までの内容と重複するので、多少くどかったかもしれません(これでもかなり省いたのですが…)。ただ、ショゲイと霊輒に関しては今までたいした説明がなかったのですが、この第四折で詳しく説明されています。


趙氏孤児は「屠成」と「程勃」という二つの名を持っているようですが…屠岸賈の前では「屠成」、程嬰の前では「程勃」と名乗ってたんでしょうか…よく分からんかったです。

劇の中では、趙氏孤児が登場した際は「某程勃是也」(わたしは程勃だ)と言っており、以下も「程勃」の方の名前しか出てきません。この幕の中で、趙氏孤児が程嬰と話してばかりで、屠岸賈と話す場面がないため、「程勃」で通してるのかな…。


話は逸れますが、趙氏孤児のように、「育ての親が実は自分の親の仇だった」というのは、『水滸伝』120回本にある田虎故事の、瓊英(石投げが得意な少女/笑)の生い立ちに似てるように思います。

趙氏孤児と瓊英、どちらが先にできたかといえば、趙氏孤児の方が先に成立したといえます(「趙氏孤児」は元に刊行された元曲集(『元刊雑劇三十種』)に収録されており、『水滸伝』は明の中葉の成立で、田虎故事はその中でも最も新しく書き加えられた段だと思われる。『元刊雑劇~』の「趙氏孤児」は、劇中の歌(曲牌)が部分的に残っているだけで、内容ははっきりと分からないのですが、こちらで紹介している『元曲選』のあらすじと、それほど大きな差異もないかと思います)。

わ、私は…瓊英と張清のらぶらぶ話は苦手じゃ…(笑)。

…と、ほんとに話が逸れました(笑)。


次の幕、第五折がいよいよラストです。

もともとこの劇は第四折までで(『元刊雑劇三十種』は四折まで)、その後ハッピーエンドにするために第五折が付け加えられたらしいのですが。

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