『巴黎本水滸全伝の研究』

 白木直也『巴黎本水滸全伝の研究』 1965



水滸伝の版本を、文簡本を中心に考察した論文…かな。

水滸伝の版本の話を読んでみたいな、と思い、図書館で借りました。


一口に水滸伝と言っても、その種類はいろいろ。

100回本、120回本、70回本という分類の方法をご存知の方もいらっしゃると思います。

100回本を基準にすれば、120回本は100回本に田虎・王慶討伐の段を加えたもの。70回本は、梁山泊に108人の好漢が集まったところで強制終了させて、朝廷との戦いや遼・方臘討伐を描かないもの…という違いがあります。


さらにまた、「文繁本」「文簡本」という区別の仕方もあります。

「文繁本」は、記述が詳細なもの。

「文簡本」は文繁本に比べて記述が簡潔で、あらすじだけを追ったもの。

岩波文庫で出ている吉川幸次郎・清水茂による100回本の訳や、講談社(今は別の出版社で出てたけど…どこだっけ、ちくま文庫?)で出ていた駒田信二による120回本の訳は、全て「文繁本」の翻訳です。水滸伝はその描写力が卓越して面白いので、それを切って捨てた文簡本は面白みに欠けるのです。文簡本の訳本はありません。



…と、前置きが長くなりましたが。


この『巴黎本水滸全伝の研究』は、「文簡本」についての論文です。

タイトルにある「巴黎本(パリ本)」というのが、パリ国立図書館が所蔵する水滸伝文簡本のテキストの通称なのです。たった1巻と数ページが残っているだけ…という、中途半端といえば中途半端なテキストです。

が、他の文簡本と比較することで、このパリ本がどのような特徴を備え、他の文簡本(あるいは文繁本)といかなる相互影響関係があるかを考えた論文…だったと思います(汗)。


…こんな曖昧な言い方なのは…この論文、読者に要求する前提知識のレベルがかなり高くて、水滸伝の版本に詳しくない私は四苦八苦だったのです…(へたれ)。



ではまず、この論文の中に出てくる文簡本のテキストにどのようなものがあるかをまとめてみる。


■パリ本

パリ国立図書館所蔵の文簡本。鄭振鐸(ていしんたく)が発見し、その存在を紹介。

正式なタイトルは「新刻京本全像挿増田虎王慶忠義水滸全伝」。

巻20全てと、巻21の8ページ(4葉)しか残っていない。


■京本

内閣文庫のものと、日光山慈眼堂のものの二つがあるらしい…。

正式なタイトルは「京本増補校正全像忠義水滸志伝評林」(でも、ページによっては表記が違っていたりするらしい)。

内閣文庫のものは、全25巻のうち頭の7巻と刊記(おくづけ)がない。

日光山慈眼堂のものは全て揃った「完本」。日本の豊田穣が発見したもの。

(内閣文庫のものと慈眼堂のものって、内容は全く同じなのかな? わ、分からん…!)


■三槐堂本

本自体は残っていないが、京本の序の欄外にある「水滸弁」という文に名前が出てくる。「水滸弁」によると、美文をかなり削った本だったらしい。


■黎光堂本

正式名称は「新刻全像忠義水滸誌伝」。全115回。この論文によると、京本をもとにして作られた、とのこと。


…とまぁ、書いてる本人もよく分かっていないのですが(汗)、文簡本にもいろいろなものがあるようです。で、これらを比較しながら、どれが先に成立してどれが後に成立したかを考察してます。


結論からいえば、成立した順番は

【パリ本→三槐堂→京本→黎光堂本】 であるとのこと。

文簡本の中ではパリ本の成立が一番早く、田虎・王慶の段を挿入したのもパリ本が最初だと思われる。

三槐堂本は、パリ本の中の美文をごっそり削除したものと思われる(現物が残っていないのでどうとも言えないけど…)。

京本は、独自の特色を出すため、新たに少し詩を加えたり、「評語」を加えて特色を出した。また、余呈という人物の扱いをよくしている(京本を出版している本屋が余氏というので、同姓のよしみで贔屓したと思われる)

黎光堂本は、パリ本と京本のいいところを折衷しようとしたと思われる。

…とのこと。らしい。


…文簡本にもいろんな種類があるんだなー、ということが分かったのが収穫でしょうか…。それ以外は難しくてよく分からなかった(汗)。

ここに書いたのは文簡本についてだけだったのですが、論文の中では文繁本との関連についても触れてます。が、私にはよく分からなかった…。

最初にあったのが20巻100回の文繁本水滸伝で、文簡本(パリ本)はそれを削って作ったもので、120回文繁本水滸伝は文簡本の後に登場した…という流れみたいです。多分。



…ほんと、自分用のメモと化してしまった…すみません;

水滸伝の版本に関して興味のある方は、高島俊男『水滸伝の世界』(大修館書店/ちくま文庫)がオススメです。分かりやすくまとめてくれています。

ほんと、高島さんのこの『水滸伝の世界』は水滸伝を読む人にとってはバイブルだよな…。濃厚でしかも面白いです。

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