加冠の時期について

 まず、以下に出てくる人名の簡略な補足です…

・杜預=左伝に注をつけた司馬晋の人

・孔穎達=左伝と杜預の注にさらに注(疏)をつけた唐の人。五経正義でおなじみ(?)のあの人

・韋昭=国語に注をつけた三国呉の人

ご存じの方にとっては当り前すぎかもですが;


   *   *   *


加冠について今のところ私の持ってる情報は以下ような感じです…

加冠(成人式)といってまず真っ先に引かれるのは、『礼記』の曲礼篇の「二十曰弱、冠」の一文でしょうね…。つまり、20歳で成人。私もこれを崇め奉っておりました…。。。



それと違うことを言ってるのが、春秋左伝正義の孔穎達疏(襄公9年)。晋の悼公が魯の襄公と会い、襄公が12歳だと分かると、悼公が「諸侯は15歳で子をもうけますから、その前に冠礼を終えるのが礼に合します。もう冠礼を行うには十分なお年頃でしょう」云々と言ってる場面に、孔穎達が以下のように書いてます。


「晋語柯陵之会趙武冠見范文子冠時年十六七則大夫十六冠也士庶則二十而冠故曲礼云二十曰弱冠是也」

(返り点どころか句読点などない…)


素人による読み(私はこう解釈しましたーということで…)

:晋語に、「柯陵の会に、趙武 冠して范文子に見(まみ)ゆ。冠する時、年十六七なり」と。則ち大夫は十六にして冠するなり。士庶は則ち二十にして冠するが故に、曲礼に「二十を弱と曰い、冠す」と云ふは、是れなり。

(「晋語」からの引用部分がどこまでか怪しい。最後の一文も怪しい…「是」は、「これ」ってことかな、「是(ぜ)なり」(=正しい)ってことかな…;)


要は孔穎達は、曲礼篇にあるように20歳で冠かぶって成人するのは士や庶人といった低い身分の人で、大夫はその例から外れることがある(もっと若くして冠をかぶって成人する)、ということを言いたい様子です。


その例(16歳くらいでの加冠)として挙げてるのが趙武だったりするのですが…孔穎達が引いてきたこの話の出所が分からんのです;; 「晋語」と言ってるけど、現存の『国語』の晋語にそんな話はない! どこでそんな話を見たんや孔穎達は…今には残ってない文章でも引いてるのかな? それとも、孔穎達が目にすることができた唐の頃の『国語』は、今の『国語』と違ってたりしたのかな??


現行の『国語』晋語には、趙武が士燮(を含む晋の八卿)に会った話はあるけれど、「柯陵之会」のときじゃない。あの疏の文中の范文子って士燮でいいんだよな…趙武も諡号が文子だから、倒錯なんかも疑えるんだが、趙武が趙文子に会うってさらにおかしいよなぁ…(笑)。「范」の一字を取り去って「文子」を趙武と解するとしても、ちょっと読みづらい気がする…(「見」の字を処理できなくなる…)。となると、この文子は范文子つまり士燮でOKなんだろうな…。誤字を疑い始めるときりがないし、いくらでも牽強付会できちゃうので、それは極力避ける方向で…。


じゃあ「柯陵の会」っていつやねん、と思って調べてみると、左伝成公17年に、「六月乙酉、柯陵に同盟す」とある。しかし士燮が死んだ後なので、これはおかしい(士燮が死んだのは同年6月戊辰=9日、柯陵の盟は6月乙酉=26日)。それにこれは「会」じゃなくて「盟」だしなぁ…。「会」も、この盟の直前にあるんだけど…晋が魯などの諸侯と会して「戯童より曲イに至る」とあって、柯陵という地名は出てこない…。。。

『国語』の周語の方に「柯陵之会」という話がある。これは左伝成公16年にある「公(=魯の成公)、尹子・晋侯・斉の国佐・チュ人に会し、鄭を伐つ」とある、この会のことを指すらしい(私の持ってる中華書局の『国語集解』に従うと)。こちらの可能性の方が、どちらかというと高いかな…しかし、他国の連中と顔を合わせる会で、どうして趙武が士燮に会いに行かなあかんねや…と、さらに謎は深まるばかりであります…(ちなみに柯陵というのは鄭の西の地らしい。杜預も韋昭もそう言ってる)。謎を解くためのカギとなる情報を収集する十分な能力がないので、分からんことだらけです;



とりあえず私が持ってる資料はそれだけです…。

手持ちの資料のうち、たまたま目に入ったものだけを拾ってるので、多分他にも資料は山ほどあるはず…。春秋時代の冠礼(成人式)についての記事の所在をご存じの方は、是非情報プリーズです。

ぶっちゃけ、趙武の成人式が何歳の時なのかが分かりません(>_<)!! 今まで20歳だと思い込んでたので、それを否定する文章を見つけて混乱してます! 以前趙武の生まれた年についてぼやいていた時も、二十歳で成人だと思い込んでいろいろ妄想してたのに! 考え直さないといけないかも!

(2010.07.10)

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