『左伝』を読むときに使ってる本いろいろ

 唐突ですがご紹介します。二冊目以降はある程度漢文が読める方向け。ある程度でおけです(自分がある程度しか読めないけど、なんとなーくの範囲では使えてるので)。よく使う順で挙げてみます。


●小倉芳彦訳『春秋左氏伝』全三巻(岩波文庫)

おそらく一番お手軽に入手できる日本語訳(全訳)。ざっと内容を把握したいときに読みます。巻末でおもしろ場面集を紹介してくれてるので、そこを拾い読みするとよいと思います!!(さんざん左伝の話をする癖に通読したことがない人) 系図も適宜載せてくれています(左伝注や世本を参考にしてると思われる)。


●竹添光鴻『左氏会箋』全二巻(冨山房)

漢文大系のやつ。自分が持ってるのは台湾で出た縮印本?ちうやつ(古本で一冊1000円やった…)。訓点がついていて、まだ読める。本文(経文・伝文)はフル訓点、注釈は送り仮名がない。杜預の注もついている充実の内容。他の諸家の注もついていて面白い(が、引用元が示されていないことが多々あるらしい)。深掘りしたいときに使う。


●楊伯峻『春秋左伝注』全四巻(中華書局)

岩波訳が底本として使ってるテキスト。本文(経文・伝文)+楊氏の注釈つき。杜預注なし。『会箋』とは違う注釈がついていることも多く面白い。年ごとに、その時の各国諸侯の名と在位年数が示されているのもありがたい。

楊伯峻・徐提編『春秋左伝詞典』(中華書局)とコンボで使うとかなりよい。『春秋左伝詞典』は索引としても役立つ本で、人名は異称も含めて網羅できる。それだけじゃなく、『春秋左伝注』に対応しており、『春秋左伝注』の何ページにその語が出てくるかが書かれていて、すぐ参照できるのが強い。


●顧棟高『春秋大事表』全三巻(中華書局)

何かと便利(あばうと)。かゆいところに手が届く。各国有力一族の系図、各国歴代執政一覧、有力国家間の戦争一覧、国家間の使節往来一覧…などなど。ちょっと困ったときに『大事表』を見るとまとめてあることが多々ある。なんとなーく見てるといろいろ小ネタが見つかっておもしろい。


●阮元『十三経注疏』全二巻(中華書局)

『春秋左伝正義』が入ってる。杜預注、孔穎達疏がついてるやつ。よほど根性があるときじゃなければ読む気力が起きない…注疏の字が小さいし句読点もついてないしで、自分には硬派すぎる; 杜預注は『左氏会箋』に載ってるので、孔穎達疏(や校勘記)が気になるときに見る。

公羊伝や穀梁伝(ともに注疏つき)も載ってる。


…手持ちの本ではだいたいこんな感じです!


ちうか、つい最近になって『春秋左伝詞典』が使えるのでは??ということに気づいたんですよね…。

例えば『左伝』の中の士会の記事を全部拾いたいなーと思った時、ネット上の全文検索(中央研究院とか維基文庫とか)で調べればいいっちゃいいんですが、その人の異称を全て知らないと遺漏が出るんですよね…「士会」「士季」「随会」「范武子」…などといちいち検索しなければならず、検索する側に相当量の事前知識が必要になるんですよね。氏を省かれて「武子」なんて書かれていたら地獄。范武子だけじゃなくて欒武子も知武子も崔武子も季武子も全部ひっかかる上に、どの武子か識別する鑑識眼が必要になる…(笑)。

でも、『春秋左伝詞典』は「士会」と引けば異称も(ちょくちょく落ちがあるが)まとめて載せてくれているので、多少手間はかかるものの遺漏なく調べられるし、『春秋左伝注』で名前が出てくるページ数まで逐一示されているので、すぐに原文と照らし合わせることができる…。人物の事績を網羅するにはだいぶ使える気がします。


試しに范さんち三代(士会・士燮・士匄)について『春秋左伝詞典』で調べた結果、『左伝』中に名前が現れる回数は、士会38回、士燮32回、士匄76回(笑)でした。士匄くん多すぎん…?

経文・伝文のどちらに名前が出ているかも示されているんですが、これを見て初めて気づいたよ…士会って、経文(=『春秋』本文)には一度も名前が出てこないのかよ…! あんなに活躍してるのに、『春秋』には出てきてないなんて…ぶっちゃけ衝撃だったのですが! なお、士燮は3回、士匄は6回、経文に名前が出てきます(使者として魯に行ったり、晋の代表として同盟に参加したりが多いので、魯の史書である『春秋』に名前があることが多い気がする)。


…ということが分かるおもろい本が『春秋左伝詞典』です。

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