映画「運命の子」感想(めも)

先日(2012.01)見に行った、趙氏孤児が題材の映画の感想…というよりも、自分で後で思い出すためのめもです。自分は普段映画は全っっ然見ないので(…)映画的な感想は書けませぬ; 自分の知ってる趙氏孤児物語との比較が中心になりまする。


自分は『左伝』/『史記』趙世家/元曲「趙氏孤児」/『東周列国志』に目を通したことがあります。南曲や京劇にも趙氏孤児話を扱った劇があるそうなのですが、そっちは見たことがないので比較対象として引き合いに出せないとです…あしからず; あと、記憶違いもあると思いますので、あらかじめご了承ください…。


この映画は、前半は既存古典を踏まえた部分が多く(もちろん異なる部分もあり)、後半(特に程嬰・屠岸賈・程勃=趙武の関係)はオリジナル色が強いです。原典として『史記』を挙げてますが、むしろ元曲のあらすじにとても近かったです。



最初は趙朔の凱旋から…かな<エエッ;<背景とか衣装とかをガン見してて字幕見てなかったので曖昧;; 趙朔は元帥として出陣し、勝利を収めて凱旋帰国します。(ヒツの戦いなんてなかった…。)親父の趙盾とは普通に親子してるっぽいです。趙盾は当時最も有力な臣で、屠岸賈は趙盾がいるせいで権力の座から遠ざかった位置に居る武官ちう感じでしょうか。一人名無しの策士さんがいつも屠岸賈と一緒にいます。テライケメン将軍の韓厥もわりと一緒にいます。

※これは、韓厥は屠岸賈の配下の将軍という元曲の設定に基づくと思われます。映画の韓厥は、趙さんちに恩があるとかそういう設定はなさげ。普通に屠岸賈の下で働いてます。


この時霊公の姉にして趙朔の嫁である荘姫は出産目前で、医者の程嬰が健康管理をしてます。40歳の程嬰も実は嫁が赤ちゃんを産んだばかり。嫁さんは程嬰が提案した子供の名前が気に入らんようです(笑)。

※荘姫は、『史記』では成公の姉(=霊公のおば)、『左伝』では成公の娘(=霊公のいとこ)だった気がします。細かいことを気にしたらアカンとは思うのですが、荘姫の「荘」は趙朔の諡「趙荘子」に由来すると思われるので、趙朔が生きてる時点で「荘姫」と呼ばれるのには引っかかりがあったりする…「孟姫」ならいいんだけども…。

『左伝』は「荘姫」「孟姫」兼用、『国語』は「孟姫」、『史記』「趙世家」では「夫人」、元曲では確か「公主」、『東周~』では「荘姫」。荘姫の方が馴染みがあるのかな?

程嬰は元曲でも医者。年齢は元曲だと45歳で、映画設定と近い。


趙さんち凱旋の際、アホで有名なポッチャ…ゲホッ霊公は、『左伝』で披露した無駄特技・パチンコで趙さんちが乗る馬車の馬にクリティカルヒットを浴びせます(ただし、『左伝』などとは違って趙盾と霊公の関係は険悪ではない。ただのイタズラ)。しかもそれを屠岸賈のせいにして、趙さん親子に対して謝罪をさせます。俄然屠岸賈の殺る気も上がります。


屠岸賈は策士くんと一緒に霊公暗殺計画を立て、霊公を殺した罪を趙盾に着せて趙氏一族を皆殺しにしようとします。秘密のお部屋で、霊公を殺すために変な蚊みたいなのを使って動物実験してみたり、獰猛な犬を趙盾と同じ服を着せた人形(?)に噛みつかせる練習をします。

※獰猛な犬といえば、『左伝』で霊公が趙盾を噛み殺させるために飼育してたゴウという猛犬がいますが、そいつを屠岸賈が育てています。これも元曲の設定。元曲では趙盾は普段紫色の服を着ていて、屠岸賈は紫色の服の人形に噛みつかせてましたが、映画の方では赤い服でした。趙盾も赤い服を着てました。


朝廷で行われた戦勝祝いの宴の席で、屠岸賈は例の蚊を使ってぽっちゃ…霊公を暗殺。「犯人は趙盾だ!」と言って猛犬を放ち、また衛士たちに趙盾を殺させようとします。趙盾の側にいたボサ髪ワイルドなイケメンと、ガッツリ着こんでいかにも屈強な武人の二人が趙盾を守るために奮戦しますが、ボサ髪イケメンの方はその場で戦死、屈強武人の方は趙盾を車に載せて脱出を図り、途中で車の片方の車輪が大破しても鎖で車軸を支えて逃げ続けますが、屠岸賈が伏せていた弓兵の餌食となって二人とも殺されるという衝撃の展開です。

※『左伝』でも、霊公に殺されかけた趙盾を守った提弥明・霊輒という二人が出てきて、提弥明は趙盾を逃がすため戦死し、霊輒は趙盾の乗った車の車輪を持って逃亡させてますよね。つまり、その場で殺されたボサ髪ワイルドな方が提弥明、屈強な武人が霊輒だと思われます。この二人は、元曲でも屠岸賈の罠にかかった趙盾を救うために奮戦してます。なお、元曲では趙盾は死なず、どこかへ逃げてそのまま行方不明になってたと思います…; 元曲は単純明快かつ細かいことは気にしないので、そんなこともあるさ…。


趙朔は戦勝祝いの宴の前に、妻が出産したという報を受けて家に戻りますが、これが屠岸賈の罠だったようで…。


程嬰はこの日も身重の荘姫のもとへ行って診察。生まれたばかりの子につける名前を妻が気に入ってくれないなどと愚痴ってたりします(笑)。荘姫は、「勃」という名前がいいのではないか、と程嬰に提案します。

この間の細かい展開はウロなのですが(汗)、趙盾を殺した勢いそのままを駆って屠岸賈は趙氏の邸宅に攻め込み、瀕死となった趙朔が荘姫のいる棟までかろうじてたどり着き、荘姫に逃げるよう言い残して絶命。そして荘姫はその後に子供が生まれそうになり、そのまま出産。荘姫はお腹にクッション的な物を入れてまだ子供を身ごもっているように装い、薬籠に生まれたばかりの赤ちゃんを入れ、程嬰に托します。


しかしそこに屠岸賈配下の韓厥が登場。程嬰の持つ薬籠から赤ちゃんの声が漏れていることに気づき、籠をひったくろうとします。程嬰と荘姫もさせるものかと抵抗するも、本業の武人に力負けし、結局赤ちゃんを韓厥に奪われ…と思いきや、程嬰が妻のために土産に持ってきて置きっぱなしにしてあった生魚に足を滑らせて韓厥がすっ転び(笑っちゃいけないとこだけどちょっと韓厥おまえ…笑)、籠は程嬰荘姫の手に。なおも引きさがらない韓厥に、荘姫が衷情を切々と訴えます。韓厥も同情はあるものの、赤子を逃せば自分が危険にさらされる。そこで荘姫は、大きく見せかけたお腹のまま自分は自害し、貴方は荘姫に騙されたと屠岸賈に報告すれば、赤ちゃんを見逃してもよいのでは…と言って自害。程嬰は赤ちゃんを籠に入れて逃げ出し、韓厥は彼を追わずに帰ります。

※元曲の韓厥は荘姫の邸の門番をやっており、荘姫の産んだ赤ちゃんを入れた薬籠を抱えた程嬰に尋問しています。しかし、元曲の韓厥の方は屠岸賈に仕えながらも屠岸賈のことを嫌っており(元曲は基本的に善悪が明白で、屠岸賈は純粋な悪役なので)、程嬰をそのまま逃がしてやり、己は己の口封じのため自害という激しい展開になっております; この場面も、元曲のこのあたりのシーンを再構築してる雰囲気。

また、元曲の荘姫(公主)も、程嬰に孤児を托した後に自害しています。これも己で己の口封じという感じで、唐突な自害ではあるのですが…。映画の方ではうまく理由づけしてあるなーと思いました。


趙氏邸の制圧が完了すると屠岸賈も自ら邸に足を運び、荘姫の遺骸を認めます。しかし、彼女の大きなお腹が偽りであり、彼女が既に子供を産み、その子が既に何者かによって救い出されていることに気付いた屠岸賈は、失態を犯した韓厥の顔面に斬りつけます。これ以降、韓厥は屠岸賈を恨むようになります。

※先述の通り、元曲では自害する韓厥ですが、ここでは屠岸賈に斬りつけられるのみ。『史記』などでは趙氏孤児(趙武)復権の手助けをするのが韓厥なので、後々韓厥にそれをさせるために死なせなかったのかと思ったのですが(なお、元曲では序盤で韓厥が自害してしまうので、趙氏孤児復権の手助けをしてやるのが魏絳ということになってます…)、結局趙氏孤児復権のシーンは最後までなかった…。しかし、屠岸賈に復讐しようとする動機が、顔に斬りつけられたからというのは、ちょっと小物っぽくていやいやいやと思ってしまう;


程嬰は、公孫という人物にこの子を托して欲しいと荘姫に頼まれていたため、趙氏の子を家に置いて城内の公孫の家を訪ねるが、当人は外出中。やむなく程嬰は自宅に戻るものの、趙氏の子が見つかりません。妻に詰問すると、屠岸賈が趙氏の遺児を探し出すために赤ちゃん狩りを行っており、程嬰の不在時に屠岸賈の手下がやってきて、そのとき抱いていた趙氏の子を渡してしまった…とのこと。これを聞いて程嬰は愕然…屠岸賈は国中の親から赤ちゃんを回収した後、両親のない赤ちゃんを探し出せばそれが趙氏の子だからこれを殺そうとしておるのです(という感じだと思います)。つまり、程嬰夫妻の手元に残ったこの子が趙氏の遺児としてターゲットにされてしまうことになったのです。

※元曲でも屠岸賈が赤ちゃん狩りをやってます。元曲の方では、生まれて6か月以内の赤ちゃんを国中から集め、趙氏孤児が見つからなければ赤ちゃんを全て殺すと布令を出してます。元曲では程嬰は自らの意志で自分の子と趙氏の子をすり替えて、趙氏の子を守り通しますが、映画の方では偶然入れ替わったことになってます。ここは映画のオリジナルです。元曲では程嬰は趙氏の世話になってる設定だったと思いますが、映画の方では荘姫の診察に行く程度の接点しかないので、その差がここに現れてるのかも。


もめる程嬰夫妻のもとに、公孫が訪問。趙氏の子を預かろうと言うが、夫妻が抱える子が趙氏の子ではないことが判明。このあたりよく覚えてないのですが(汗)、とにかく公孫は程嬰の嫁さんと赤ちゃんを連れて城外に出ようとしますが、城門が閉ざされていたので城内の公孫の邸に引き返し、赤ちゃんと程嬰の嫁さんを隠します。

※公孫(杵臼)が趙氏と縁があり、これに趙氏の遺児を托すというのも元曲と同じ。元曲の公孫杵臼は趙盾のかつての同僚で、既に隠居して太平荘というところに住んでます。公主(荘姫)に托された子をどうしようか悩んだ程嬰は公孫杵臼に相談し、公孫杵臼が趙氏孤児(とすり替えた程嬰の子)を匿うことになってます。


程嬰は、赤ちゃんたちの親が集められている(朝廷の?)庭にやって来ます。赤ちゃんたちは狩り集められたもののまだ生かされているのですが、趙氏の子が定刻までに見つからない場合は皆殺しにされてしまうのです。屠岸賈は親たちの前に現れてそう宣告し、また程嬰一人を呼び出します。赤ちゃんが連れて行かれる際に他の両親たちは揃っていたのに、お前だけいなかったのは怪しいと疑っているのです。程嬰宅から連れてきた赤ちゃん(すなわち趙氏の子)を程嬰に見せ、これは本当はお前の子ではなく趙氏の子ではないのかと尋ねると、程嬰は自分の子に間違いないと言い張ります。しかし屠岸賈は荘姫の診察も行っていた程嬰を疑っており、ここにいるのがお前の子なら趙氏の子の居場所を白状せよと迫ります。程嬰は知らないふりをしますが、屠岸賈に「もし白状しないと、お前のせいで赤ちゃんが皆殺しになると親たちに言うからな!」とカマを掛けられ、「公孫に托しました」と言ってしまいます。

※諸古典では程嬰と公孫杵臼は打ち合わせを済ませた後に程嬰がバラしてますが、ここでは二人の事前の確認はなかったと思います。『史記』などでは趙氏孤児の身代わりの子を屠岸賈に殺させて安心させることが二人の目的ですが、映画では程嬰も公孫杵臼もそういう共通の目的を持ってないので、事前の確認もナシなのだと思われます。


公孫もこうなることは分かっていたようで、程嬰の妻と子を隠し部屋に隠し、斎戒沐浴して(<なんか普通に風呂っぽくもあったんだけど)静かに待ってます。するとそこに程嬰を連れた屠岸賈と兵たちが現れ、公孫の邸を囲みます。公孫は屠岸賈に、存分に邸の中を捜せばよいと言うと、屠岸賈は部下たちに大きな物音を立てさせます。すると、それに驚いた赤ちゃんの泣き声が…。したりと屠岸賈はその声の元に行き、行く手を阻んだ公孫を刺殺し、壁を壊して程嬰の妻と赤ちゃんを見つけてしまいます。屠岸賈は顔を見るだけだからと赤ちゃんを受け取ると(その前にもやりとりがあったんだけど細かいところをあまり覚えてない;)、そのまま地面に叩きつけて殺し、剣を執った程嬰の妻をも殺して、公孫邸を後にします。


実の子も妻も失った程嬰は、手元に戻された趙氏の子に、荘姫にもらった「程勃」という名をつけ、男手ひとつで育てることになります。この子を育てて、この子の手で屠岸賈に復讐をさせようと考え、程嬰は公孫を密告した功によって己を家臣とするよう屠岸賈に申し出ます。屠岸賈はそれを承諾し、程勃の面倒を見るもう一人の父のようになります。こうして程勃に愛情を持たせ、その子に殺されるならば、屠岸賈の絶望感がより大きなものとなる…程嬰が屠岸賈に仕えた目論見はそこにありました。

※元曲においても、程嬰は屠岸賈によって取り立てられ、二人で程嬰の子(=趙氏孤児)を育ててます。映画では程嬰が自ら望んで臣となっていますが、元曲では屠岸賈が程嬰の密告の功に報いる形で取り立ててます。程嬰の子(趙氏孤児)の「程勃」という名も、元曲が元ネタ。


これ以降は映画オリジナルの展開が続いて、自分の知ってる諸古典の展開からは離れていき、屠岸賈・程嬰の二人の父と程勃、時々韓厥の関係の描写がメインとなります。屠岸賈が元曲のような単純な悪者ではなく、程勃に対して父性を見せることも多いですし、程嬰と程勃の関係も複雑です。韓厥はなんか浪人みたいになってもーて(オイィ!)程嬰とともに屠岸賈への復讐を画策したりしてますが、ぶっちゃけ役に立ってるのかどうか分からん…<コラ;

最終的には程勃は屠岸賈を討つのですが、そこまでの登場人物たちの心の動きなどは追い切れなかったので、気になる方は劇場に足をお運びいただくか、公式サイトの読み物ページをご覧いただけば、監督が表現したかったことなどがお分かりになるのではないかと思います(自分も、映画を観終わった後で公式サイトの監督インタビューなどを読んで「そうだったのか」と思う点が少なくなかった…。韓厥には程勃の3人目の父としての性格もあるらしい…自分はほとんど看取できなかったんだけど(>_<))。

最後は程嬰の死で幕が下ります。『史記』とは異なる幕引きです。

※なお元曲は単純明快でハッピーエンドなのがテンプレなので、屠岸賈を討って程嬰も生きたままめでたしめでたしで終わってたと思います。


オリジナル強め展開での自分的見どころは、

・程嬰が絵巻物を作る<これも元曲にある。趙氏孤児を救うために死んだ人たちの話を絵巻物にまとめ、それを成長した程勃に見せて復讐させようとしていた。映画の中では結局絵巻物が程勃の復讐心喚起に使われることはなかったけど…

・ちっちゃい子程勃がちょうかわいいです。やんちゃです

・子程勃が韓厥のケツにかみつくシーンがあります(※ダジャレではない)

・浪人韓厥は程勃に嫌われているそうです…父上(程嬰)に近づく怪しい奴という認識です、韓厥(笑)。

・成長した程勃はだいぶ元気な子です…少々アホの子なのではと思うくらい元気です…。趙武は服に押しつぶされそうなほど華奢だと言われた人ですが、こっちの趙武=程勃は鎧を着こんでるシーンが多く、力を入れたらTシャツバリィィくらいできそうです。

・戦争シーンもありますが、馬の背にまたがり剣を振っての戦いです(しかも林間)。たぶん、4頭立ての戦車をいくつも並べて戦闘シーンを再現するのは危険だという判断もあったのだと思われます(監督のインタビューでも、演者の安全>考証だと言ってましたし、そもそも4頭立ての馬車を御せる人がそうそういないんだろうなぁ…)。まあ、『東周列国志』系の挿絵でも普通に人は馬にまたがって戦ってるし、いいか…<いいのか。正直、ちょっと残念でもあるんですけどねー…戦車戦見たかった(>_<)。なお、晋の敵は楚ではなく、北方異民族っぽい衣装でした。狄のイメージ? ちょっと残念な気持ちもありますが、屠岸賈が趙盾を陥れた際の朝廷での戦いなどの戦闘シーンは全般的に迫力満点でした。


あっ、本編ではなく最後のスタッフロールに凄い地雷(?)がありますよ…スタッフさんの中に「趙武」ちう名前の人がいるのですよ!!!(笑) なんとなく眺めてたらすげい見覚えのある名前が目に止まって、エエエーーー!?って感じになりました。本編では結局、程勃が趙武と呼ばれることがないまま終わるのですが…まさかそこで趙武が出てくるとは…。

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