『三国志平話』の転生譚

『演義』の元ネタの一つに、元の頃に出版された『三国志平話』という書物があるのですが(こーえーさんから訳が出てますよ/笑)、その冒頭に語られる話によると、三国の三英雄…すなわち曹操・劉備・孫権は、漢の建国に功績があったにも関わらず誅殺された三人の名将の生まれ変わりである、という話があるんですよね。


韓信が曹操、英布(黥布)が孫権、彭越が劉備に生まれ変わって漢を三分し、彼らを殺した劉邦・呂后を献帝とその皇后に生まれ変わらせて報いを受けさせる、という話になっているのです。で、それらを決定した裁判官である司馬仲相という人物を司馬仲達に生まれ変わらせ、この名裁判を嘉して天下を統一させることになった…とかとか。


『演義』は、この荒唐無稽な話をバカバカしいと思ってか採用していないのですが、『平話』にはそんな荒唐無稽すぎる話が残ってるようです。『演義』は、レベルの高い読者の要望に堪えるようにするため、あまりに荒唐無稽な話は切り捨て、史実に基づいて修正を加えていったようです。まあ、『演義』が最も参考にしているのは正史三国志と司馬光の『資治通鑑』・朱熹の『通鑑綱目』(およびそれらの関連書)であって、『平話』ではないので、ある意味それが自然なのかもしれません…。


『演義』の史実化については、金文京先生の『三国志演義の世界』に詳しかったです(<読了しました)。わたなべよしひろさんの『図解雑学三国志演義』にも、そのあたりの話があると思いますので、お持ちの方はご覧くだされ…。

(2009.03.15)


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前の日記で『三国志平話』の転生譚について書きましたが、これを元ネタにした短編小説もあるようです。

明の馮夢龍(ふうぼうりゅう)という人が書いた『喩世明言』という短編集の中に「鬧陰司司馬貌断獄」というのがあるのですがそれです。


話の筋はだいたい『平話』と同じ流れですが、かなり詳細に書きこまれてます。主人公の名は司馬貌、字は重湘。『平話』の主人公は「司馬仲相」なので、氏が同じ別人のようですが、「仲相」と「重湘」は、中国語で発音すると同じか酷似しているはず。いずれにしろ、彼があの世の裁判を見事にやってのけて、彼が司馬仲達に転生して三国を統一するという話には変わりありません。


が、『平話』では司馬さんに課せられた案件は1つだけだったのに、『喩世~』では4件の案件を裁いてます。したがって、登場人物も増えていて、『平話』では韓信、英布、彭越、劉邦、呂后、蒯通(<この人が諸葛亮に転生する)くらいしか出てこなかったのに、蕭何・樊噲・項羽・項伯・雍歯・紀信…などなど、もっといっぱい楚漢がらみの人たちが出てきて、司馬重湘の裁きを受け、三国時代に転生してます。

(2009.03.19)


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『喩世明言』にある「鬧陰司司馬貌断獄」という話が語る転生譚で、楚漢攻防期の誰が、三国時代の誰に転生したかについて。


『三国志平話』にある転生譚では、既に書いた通り、韓信→曹操、彭越→劉備、英布→孫権、劉邦→献帝、呂后→伏皇后、蒯通→諸葛亮 となっており、「鬧陰司~」の方でもこれは共通。しかし、さらに多くの人物が転生することになってます。以下、「鬧陰司~」の転生話のネタバレ。無駄に伏字にしておきます(笑)。


・蕭何→楊脩(韓信を劉邦に推薦したのを賞して、生まれ変わった後は曹操の下で才覚を発揮して栄耀を得るが、韓信を殺す策を立てたので、韓信の生まれ変わりである曹操に殺されることになったらしい)


・許復→龐統(許復は、韓信の寿命を占った人らしい。それが外れたので(ただし韓信の悪行によって寿命が縮んだらしいのだが)、韓信と同じ32歳で予期せず死ぬことになるらしい…が、龐統って32歳だったか…? 35だよな…)


・樊噲→張飛(ぱっと見…?笑  豪快な人といったらこの人、という感じですね)


・項羽→関羽(安直に名前つながり…笑。もとい、項羽の「羽」は名ではなく字ですが。)


・紀信→趙雲(紀信って、劉邦の身代わりになって死んだ人でしたっけ…。忠義に死んだのに賞与を受けられなかったので、趙雲に生まれ変わらせて、受けるべきだった誉れを受けさせてくれたんだそうです)


・戚氏→甘夫人(戚氏は劉邦の妾。美人。それを呂后に妬まれて、言葉に書くのも恐ろしい刑戮を受けるという…あの、人豚の件です…。)


・如意→劉禅(如意は戚氏の子。劉邦が皇太子にしてくれると言っていたのに、呂后に反故にされた。皇太子になれなかった分、来世で劉禅に転生して、富貴を受けられるようにしたんだそうです)


・丁公→周瑜(丁公は、もと項羽の将で、劉邦を助けたのだが、劉邦が天下を統一した時に殺されたらしい。全然知らんのですこの人のこと…。項羽に最後まで仕えられなかったので、周瑜となって生まれ変わった後も孫権に最後まで仕えられず、志半ばで死ぬことになるらしい…が、よく分からん理屈だ…(笑))


・項伯・雍歯→顔良・文醜(ふたりとも項羽に背いたので、項羽の生まれ変わりである関羽に斬られなさい、だそうで)


・楊喜・王エイ・夏広・呂勝・楊武・呂馬童→ベン喜・王植・孔秀・韓福・秦キ・蔡陽(こいつらも項羽に負い目がある人物たちなので関羽に斬られなさいと…。この6人は、関羽の五関突破の際に殺された人物たち)


で、これを判決した司馬重湘と、その妻である汪氏は、司馬懿とその妻に生まれ変わるということになってます。なんか滅茶苦茶な気もしますが(笑)もし興味がございましたら、『喩世明言』をご覧ください~。お察しかと思いますが、史実ではなく演義が話のベースになっているみたいですね。

…しかし、楚漢攻防期に詳しくなくて、たいした解説をつけられなくてすみません;;

(2009.03.22)

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